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鮨とワインのペアリング:5つの法則
お鮨とワインの相性を五感と科学的に紐解く究極のペアリング理論ー「5つの法則」は、構造のバランスを合わせる、風味の同調、味わいの補完(五感のコントラスト)、土壌とテロワールの共鳴、そして生臭さを抑える最新理論を総合的に分析した画期的なものです。ワインのプロと鮨職人の感性を融合した日本発のお鮨とワインペアリング理論を紹介します。
1. 構造のバランスを合わせる(Balance of Structure)
鮨とワインのペアリングで最初に考えたいのは、香りの相性よりも構造の相性です。ここでいう構造とは、口に入れたときの重さ(料理やワインの構成を重さに例える)・質感・温度感・余韻の長さなど、味わい全体を形づくる骨格のこと。
この骨格を重さと認識して、ワインの重さ(構造的密度)と、鮨の重さ(味覚構成・調理密度)を釣り合わせること。
両者のボディ感、温度、質感、味の密度を一致させることで、口中でひとつのハーモニーを生む。これを本サイトでは「構造のバランス(Balance of Structure)」と呼び、ペアリング方程式の中核に据えます。
ワインの重さとは ワインの“重さ”は、単に色やボディだけではなく、以下の複合要素の総合点で決まります。
| 要素 | 軽い(Light) > | < 重い(Full) |
| ワインスタイル | 軽白、辛口泡、淡ロゼなど | 重(樽)白、オレンジ、濃ロゼ、重(熟成)赤など |
| 樽熟成 | 樽なし/旧樽 | 新樽・長期熟成 |
| 残糖量 | ドライ | オフドライ〜甘口 |
| アルコール度数 | 11.5%以下 | 14%以上 |
| 乳酸発酵(MLF) | なし(シャープ) | あり(まろやか) |
| タンニン量 | 少ない | 多い |
| 果実の熟度 | 冷涼・温和地域 | 温暖・高温地域 |
| 酸度 | シャープ・直線的・酸多め | 柔らか・酸低め |
| 熟成ニュアンス | 若い・クリーン | 酸化熟成・旨味複雑 |


お鮨の重さとは 鮨の“重さ”は、素材・調理・味付け・構成の4要素で決まります。
| 要素 | 軽い(Light) > | < 重い(Full) |
| ネタの種類・部位 | 白身 青魚 赤身 貝類 上身で脂少め | サーモン、トロ 穴子 魚卵 腹身で脂多め |
| 調理方法 | 生のまま・酢締・昆布締 | 蒸す・茹でる・炙る |
| 味付け | 塩・柑橘・生醤油 | 詰め・濃いタレ・ソース類 |
| シャリ酢 | 米酢 | 赤酢・黒酢(熟成) |
| 薬味・付けあわせ | ネギ・生姜・青葉 | 海苔・山椒・お新香・干瓢 |
2. 風味の同調(Aroma Harmony)
鮨の香りの層と、ワインの香りの層を「重ね合わせる」ことで、両者の魅力を引き出す方程式。
鮨の素材 × 職人の手仕事 × 付け合わせに対し、ワインの品種 × 醸造 × 熟成による香りや風味の相乗効果により、お互いを引き立て合いながら調和する関係をペアリングの方程式とします。
鮨の香りの構造とは
| 構造 | 要素 | 香り・風味 |
| ネタの本質 | 魚介のミネラル(ヨード、鉄分、マグネシウム)、グルタミン酸 | 海風、貝殻、海藻、旨味 |
| 職人の仕込み | 昆布締め・酢締め・炙り | ヨード、熟成香、スモーク、旨味の濃縮 |
| シャリ・合わせ酢 | 米と酢(砂糖、塩、各種酢) | 穀物香、木桶の香、まろやかさ |
| 付け合わせ | 海苔、和柑橘、薬味、詰ダレ | ヨード、スパイス、柑橘、焦がし香、旨みの凝縮 |
ワインの香りの構造とは
| 構造 | 要素 | 香り・印象 |
| 品種由来 | 果実香・花香 | 柑橘、白桃、りんご、ハーブ、白い花 |
| 醸造由来 | 酵母・シュールリー・果皮浸漬 | ナッツ、トースト、酵母、蜜、紅茶 |
| 熟成要素 | 樽香・マロラクティック発酵 | バニラ、スモーク、乳製品、焦がし香 |
| テロワール要素 | 土壌由来 | 火山岩:スモーキー/石灰:チョーク香/粘土:アーシー |
鮨とワインの香りの構造を合わせたペアリングによる相乗効果
| 【鮨】 | 【ワイン】 |
| ウニ(海のヨード・ミネラル感 ) → | 石灰質のヨード感(ブルゴーニュ・シャブリ)/石灰質・火山土壌のヨード、鉄、マグネシウム感(アシルティコ・サントリー二) |
| あなご(炙りの香ばしさ) → | 樽熟成シャルドネ(ナパ・ヴァレー)/樽熟成・瓶内二時発酵(シャンパーニュ) |
| ヒラメ(昆布締めの旨味) → | ハーブ香・柑橘香・シュールリー(甲州) |
| サバ(酢締めの酸味、旨み) → | 乳酸・アーシー感・フェノールの苦味(オレンジ・ジョージア) |
| イカ(和柑橘の爽快さ) → | リンゴ酸、柑橘系・ハーブ(ニュージーランド・ソーヴィニヨン・ブラン) |
| 薬味・海苔の青み → | ペトロール香、ヨード香(ドイツ・リースリング) |
3. 味わいの補完(Flavor Completion)
鮨が持たない(少ない)要素(酸・甘味・苦味・旨)をワインが持つ味覚要素で補い、味わいの均衡・調和を構築する方程式。例えば、オレンジワイン・赤ワインのタンニンが苦味要素を補う。ワインの持つ果実味が味わい全体に甘味を補う。ワインのシュールリー製法や熟成により旨みを追加するなど。足りない要素をワインで補完し、口中調和をもたらす関係。
味わいを構成する5つの要素「五味」
五味の味覚パラメーター
すべての項目がバランスよく配置されることによって口中の調和を表します。
鮨の五味の要素にワインの要素が補完するイメージ
鮨とワインのペアリング
マグロ中トロ × シャルドネ(樽熟) 味覚バランス比較
© Sushi & Wine Labo | 味覚レーダーチャート
マグロ中トロ+樽塾シャルドネ ナパ・ヴァレー シャルドネ(樽由来のほろ苦味+まろやかな酸味)
果実の甘みで中トロの脂みに厚みを与え、まろやかな酸とほろ苦さが味わいをまとめる。
補完の例
・ホタテ → シャルドネ樽なし シャブリ(シャープな酸味+石灰質土壌のミネラル)
味覚を酸でタイトに、ミネラル感が増幅。
・コハダ(酢締め) → アルバリーニョ リアス・バイシャス(豊富な酸+ほろ苦味)
酸味の方向性を揃えつつ、塩味・旨味に苦味を補完。
・煮穴子(ツメ) → 濃ロゼ タヴェル(軽い果皮渋味+まろやかな酸味)
控えめな酸味がツメの甘味に、皮由来の渋みが甘さを引き締める。
・炙りサーモン → オレンジ ナパヴァレー(果皮由来の苦味+豊富な果実味)
炙りのメイラード系苦味と“微苦”を合わせ、余韻を立体化。
・ヒラメ(昆布締) → 瓶内二時発酵のスパークリング シャンパーニュ(辛口)(旨み成分+シャープな酸味)
オートリシス(澱熟)由来の旨味成分が“だし感”を補強し、鋭い酸味は味覚をタイトにする。
4. umamiとミネラルの同調(Terroir Connection)
ワイン産地の地質成分(カルシウム・鉄・マグネシウムなど)がもたらすミネラル感と、魚介の風味や旨味(アミノ酸・グルタミン酸)がリンクして同調する方程式。
・石灰質土壌=ヨード香・塩味
・火山性堆積土壌=鉄・マグネシウム
・火山性変成岩=硬質ミネラル
- 石灰岩 風味に現れる特徴…際立った酸味、ミネラル感(ヨード、火打ち石、海の塩)、シャープな骨格で、余韻が長い、繊細、エレガンス、など。
代表的な産地…ブルゴーニュ(シャブリ)、シャンパーニュ、リベラ・デル・デュエロ、ピエモンテ、 ナパ・ヴァレー・ハウエル・マウンテン、ヘレスなど - 花崗岩 風味に現れる特徴…白ワイン/シャープな骨格、豊かな果実の香り、ミネラル感、キレのある酸味、など。
赤ワイン/パワフル、重厚、粘性が高い、フローラルな華やかな香り、緻密で繊細な骨格、ミネラル感、など。
代表的な産地…ブルゴーニュ(ボージョレ)、北ローヌ, アルザス, 南ア(ステレンボッシュなど)、ダオン、チリなど - 粘板岩(スレート)風味に現れる特徴…ミネラル感、華やかな果実の香り、旨み感じさせるミネラル、熟成のポテンシャル、など
代表的な産地…モーゼル、 オーストラリア(クレアヴァレー)、プリオラート、ヴァル・デ・オーラス - 片岩(シスト)風味に現れる特徴…ミネラル感、フルボディで厚みのある骨格、複雑性、凝縮感、シルキーなテクスチャー、強いタンニン、など。
代的な産地…アルザス、プリオラート(ガルナッチャ/カリニャン)、ラングドック、ルーション、ロワール、ドウロ・ヴァレー、モーゼル、リベラ・デル・デュエロ、など
| ワイン | 土壌 | 鮨との同調 | |
| シャブリ | 石灰岩:キリッとした酸とヨード香 | 昆布締め白身の出汁的旨味を上げる | |
| ボジョレー | 花崗岩:フローラルな果実と硬質なミネラル | 酢締めした鯖の酸味を補完する果実味と脂をまとめる苦味 | |
| プリオラート | 片岩:鉄的・ミネラルの厚み、繊細なタンニン | 穴子のタレの甘やかさにタイプするタンニンと鉄のようなミネラル | |
| サンセール | 火打石(シレックス):硬質なミネラルとシャープな酸 | サーモンの脂身を酸が引き締めて、ミネラルが香りを引き立てる | |
| モーゼル・リースリング | 粘板岩:ペトロール香と熟成の風味 | 熟成マグロの酸化香と重なり熟成感を引き上げる |
5. 生臭さを管理する(Freshness Equation)
魚介類とワインを合わせた際に発生する“生臭さ”の原因物質(鉄・揮発性硫黄化合物・脂質酸化由来成分など)を、栽培・醸造・酸化管理で抑制し、魚本来の風味を維持する方程式。
・メルシャン研究によると、鉄濃度の高いワインは魚臭を助長する。
・低鉄ブドウ管理(鉄肥料制限、非鉄器具使用)、高酸スタイルの設計で臭気リスクを防ぐ。
・ステンレス発酵や短期シュールリーによって酸化を防ぎ、清潔な後味を維持する。
・酸保持型品種(甲州・リースリング・アルバリーニョ)は生臭成分の生成を抑制する。
総合定義
Sushi × Wine Pairing = f (Aroma Harmony + Flavor Completion + Balance of Structure + Terroir Connection + Freshness Equation)
香り・味・構造・土壌・科学的アプローチの五感と科学を統合した理論構造。
