第8回目は光ものの花形、夏から秋にかけて旬を迎える小肌とドイツ・ラインガウのリースリングのペアリング
小肌の酢締めの酸味と旨味に呼応するのは、シャルドネ主体のブラン・ド・ブラン。柑橘の酸とミネラル、そして泡の構造が、光物の鮨を昇華させる。
酢締め仕立て × ラインガウリースリング(トロッケン)
◯ ペアリングのロジック
- 品種特有の個性により現れるペトロール香や蜜のニュアンスが、酢締めによって凝縮された小肌の旨味に寄り添う。
- しなやかに残る酸の骨格が、光物の複雑さをしっかりと支え、調和の深みを生み出す。
- 江戸前の伝統的な“酸の仕事”と、リースリングが時を経て獲得する熟成美が交差し、静謐で文化的な余韻を描き出す。
酢締めの柔らかさとリースリングの酸が同調しシナジーを産む。
小肌の握りは、鮨文化における酸味の芸術を最も端的に示すネタである。リースリング・トロッケンは、その酸を鏡のように映し返し、時に透明に、時に重層的に響かせる。
江戸前とラインガウ──異なる文化が酸を媒介に交わるとき、鮨とワインは“味覚の普遍言語”を語り始める。
小肌は「江戸前の矜持」を体現するネタ。塩と酢で仕立てる職人の技によって、魚の持つ脂と旨味が調律される。光物の中で最も繊細な酸味と旨味のバランスは、江戸前寿司の魂を映すものだ。
この小肌に寄り添うのが、ドイツ・ラインガウのリースリング・トロッケン。果実のフレッシュな酸は小肌の酢締めを透明な音楽のように奏で、熟成の陰影を帯びたボトルを選べば、寿司はさらに時を超えた調和を示す。
小肌の酸とリースリングの酸──その交差点に生まれるのは、“江戸前とラインガウ”という文化の対話であり、鮨とワインが共に描く芸術的な余韻である。