第2回の主役は、春の海から届く繊細な白身ー花鯛です。
春の真鯛は、産卵前の引き締まった身にほんのり赤みを帯び、「花鯛・桜鯛」として市場に出回ります。脂の乗りを楽しむのではなく、ミネラルの芯と繊維の張りを活かすために選んだ仕立ては、酢締め。軽く塩をあて、昆布を添えた米酢でやさしく締めることで、酸の輪郭をなめらかに整え、白身の香りを一段引き出します。
ここに、桜のつぼみの塩漬けをほんのひとひら添える。それだけで、一貫の上に“春の気配”がふわりと咲きます。香りが立ちすぎず、ほんの少しだけ余韻に残る塩味と花香。その静けさが、ワインとの対話を始める準備になります。
合わせたのは、イタリア・アブルッツォ州のロゼ「チェラズオーロ・ダブルッツォ」。モンテプルチャーノを主体に、ロゼとは思えぬほど色調が濃く、果皮の旨味と穏やかな酸、そして石灰質土壌に由来するミネラルが、酢締めの酸と鯛のミネラル感に見事に重なります。桜の花の香りと、ワインの赤果実とハーブのニュアンスが、視覚と嗅覚の両方で“春の風景”を完成させてくれました。
ポイントは醤油を使わず、藻塩で仕立てたこと。シャリに強い塩味を持たせず、ネタの酸味と花の香りが穏やかに立ち上がるよう設計しています。ワイン側も主張しすぎない、しかし繊細に層を持ったロゼだからこそ、この構成に寄り添えたと感じました。
桜鯛を握る手は、春の海を握っているようなもの。そこに桜の花とロゼワインが交差するとき、それはもう“味”の話ではなく、“季節の詩”のような一貫になります。
「鮨とワインは合うのか」ではなく、
「鮨をどう仕立てるかによって、ワインはどこまで物語を支えられるのか」。
そんな問いとともに、次回もまたひとつ、季節と握りを重ねていきたいと思います。
ワインペアリング 花鯛 chidai

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